終焉というものは、案外呆気なく訪れる。
「な……に……?」
世界は予定調和ばかりではない。
「うそ…………」
予期せぬ出来事。
理不尽な結末。
そんなものは、どこにでも溢れかえっている。
「え…………」
何故なら、世界とはそういうもので。
「なんなんだよ…………!」
その“理不尽”は、誰に対しても、平等に訪れるのだ。
「なんだんだよ……こいつは!」
魔法少女リリカルなのはsymphony phaseⅢ
最終話 worldembryo
紅く濡れた、銀色の刃。
その一撃は、確実に、ジャックの心臓を貫いていた。
反応する暇も与えられず、まるで植物のように壁から伸びる刃。
考えつきもしなかった出来事に、その場にいる誰もが言葉を失っていた。
「…………」
フェイト、アカネ、コルト。
その三人が見つめる中で、ジャックを突き刺したまま、その刃がブルリと震えた。
いや。刃だけではなく……刃が伸びた壁全体が、小刻みに振動していた。
「!?」
三人がいる遺跡『モノリス』の壁は、他の遺跡と変わらない、未知の金属素材でできている。
調査の過程で調べているが、その強度は本物で、純粋な破壊魔法が苦手なフェイトだけでなく、様々な攻撃手段を取れるコルトであっても、破壊どころか傷をつけることすら難しい。
その金属壁が振動、それもただ震えているわけではなく、まるで水の波紋のように震えているのだ。
明らかに異様な光景に、三者三様に身構える。
何が起こっても、即座に対応できるように。
三人が視線を向ける中、その金属壁は一際大きく振動し……ドロリと、まるで垂れた絵の具のように壁から垂れ落ちる。床に垂れた液体は床を移動し、すでに事切れたジャックの身体を中心にして集まり始める。
「な……」
金属壁と同じ銀色の光沢を放つ液状の物体がジャックの身体を覆い隠し、それからもう少し時間をかけて、直径二メートル程度の半球状の物体を形成し、ようやく金属壁の溶解が止まる。
「――――!?」
途端――背筋に冷たいものが走る。
理屈じゃない。
経験でもない。
ただただ、衝動に駆られるようにフェイトは横に転がり……次の瞬間、それまでフェイトがいた場所を、ジャックの胸を貫いたのと同じ金属の刃が通過する。その軌道は、確実に心臓の位置。もしあと半秒でも反応が遅れていれば、確実にフェイトはやられていた。それだけの時間。
そしてフェイトだけでなく、アカネとコルトも、同様にその刃を回避していた。
その三本の刃が伸びるのは、眼前にある、半球状の謎の金属塊。
「……液体金属……生命体?」
コルトの呟きに、まさか、とフェイトは思い、しかしすぐに、その言葉に納得する。
液体金属生命体。
水銀のような見た目。性質は粘性の極めて高い液体。形状は自在で、状況に応じて瞬時に硬化し、相当の硬度を誇る金属壁にも匹敵する。
そのような素材、管理局の最先端魔法技術でも、製造することはできない。
その存在そのものがロストロギア級。
だが、なるほど。
「最終的に行きつくのは、そこってわけか……!」
コルトの呟きに、フェイトは無言で同意する。
生体兵器であるという判断が、今のフェイトには最もしっくりきたのだ。
これがもし今までのフェイトならば、目の前の存在を見ても、生体兵器だとして見ることはできなかっただろう。精々が、ロストロギア級技術による攻撃兵器。
だが、この世界に来て、遺跡群やそれに連なる生体兵器達との戦いを重ねてきた経験が、目の前の液体金属も、生体兵器だという判断を下す。
そして同時に、思う。
生体兵器の形態としては、これ以上のものはない。
何故なら、液体というものは、特定の形状を持たないのだ。
糠に釘、暖簾に腕押し。それどころの話ではない。
液体金属生命体に攻撃するということは……つまり、清流に石を投げ込むようなものなのだ。
対象が液体である限り、どこにどのような攻撃をどれだけしようとも、その流れを破壊することはできないのだから。
「飛べ!」
「!?」
アカネの叫びに、フェイトとコルトは咄嗟に地面を蹴る。
刹那、それまでフェイト達がいた場所が、剣山に呑み込まれる。
液体金属生命体の身体から伸びる無数の刃。
何の前触れもなく、液体だから予備動作もなく、無論魔力の流れもない。
唯一の救いは、刃の射程が精々数メートルであることぐらいか。
それ以上近付くと、三人ほどの手練でようやく回避できるような攻撃。それ以前に、液体の身体に近接格闘攻撃が通用するとは思えないし、迂闊に近付くと、何が起こるか予想がつかない。それこそ、ジャックの身体のように液体金属に呑み込まれても不思議ではないのだ。
ならば、遠距離からの攻撃ならばどうなのか。
「アカネ、コルト執務官!」
アイコンタクト。
それだけの動作で、アカネもコルトも反応してくれた。
ほぼ同時に三人がバックステップを踏み、液体金属生命体から距離をおく。
『烈風なりし天神、今裁きのもと撃ち砕け。颶風なりし雷神、今断罪のもと薙ぎ払え。プラズマランサー・バルカンファランクスシフト』
『燃え盛れ、蒼き焔。焼き尽くせ』
『Schimmer form』
フェイトとアカネは詠唱。
コルトはフォルムチェンジ。赤い刃の片手剣から、バレル・マガジン・グリップ・トリガー・ストックを有した、全長一メートルを超える狙撃銃――対物ライフルへと姿を変える。
アームドデバイス『ムラクモ』第九形態”フルドライブ“シマーフォーム。
十を超えるデバイスの形態を持つコルトの、遠距離対応型のフルドライブ。
戦車の装甲すらも打ち抜く、対物ライフルと呼ばれる武器を模した形態。
『撃ち砕け、ファイア!!』
『Plasma Lancer Vulcan Phalanx Shift』
『煉獄蒼炎!!』
『Barrett Shot』
機関銃の如き雷槍の一斉射撃。
肉を焦がし骨を焼く蒼の炎。
そして、鋼鉄の塊も穿つ魔力の弾丸。
液体金属生命体の身体に無数の穴をあけ、灼熱で焦がし、魔力弾を撃ち込んでも、すぐに元の形に戻ってしまう。
間違いなく一級の能力を持つ彼らの攻撃のどれもが、決定打に成りえない。
「……次!」
アカネの声に従い、第二撃を放つ。
『Magnetic Field』
『龍断剣“焔”』
『Burst Shot』
対象そのものを磁化させ、磁力の作用によって組織崩壊を起こさせる、フェイトのマグネティックフィールド。
刃渡り十メートル近い巨大な刃を火炎で形成し、相手を超高温で焼き切る、アカネの龍断剣“焔”
魔力製徹甲榴弾を放ち、相手の身体の中で爆散させるコルトのバーストショット。
その、一撃一撃が必殺技となり得る威力と実績を持つのに、目の前の液体金属生命体に対しては、手ごたえどころか、ダメージを与えている実感すらない。
いくらこの三人が優秀でも、水そのものを破壊することはできない。
それほどまでに、液体という攻撃対象は厄介なのだ。
そもそも、このような相手には、この三人には絶望的に相性が悪い。
フェイトの超高速機動。アカネの近接格闘戦。コルトのトリッキーな乱打撃。液体金属生命体には物理打撃は通用せず、接近するだけでも、自在に変化する身体から伸びる刃に攻撃を受けてしまう。
雷撃も、炎熱も、金属には効果がない。コルトは詠唱を伴う属性魔法を習得していない。
フェイトも、アカネも、コルトも、液体金属生命体を警戒しながら策を練る。液体の身体を波打たせ、じわじわと近寄ってくるそれから一定の距離を保ちながら、三人は後退する。
だが、どれだけ考えても、打開策は思い浮かばない。
今までの、形状はともかくとして一応生き物のカテゴリーにいた、生体兵器達を相手にするのとは、ワケが違うのだ。
相手が固体なら、破壊できる。
ならば……液体は、どうやって破壊すればいいのだ?
「…………!」
にじり寄る金属生命体から、不意に、無数の金属の刃が伸びる。どうやら特定の相手を対象とした攻撃ではないようだ。枝のように数十の刃を不定形な身体から伸ばし、近くに存在するものを無差別に攻撃する、
その刃の発生に反応し、フェイト達は更に液体金属生命体から距離を置く。しかしその切っ先の対象が自分達だけでないことに気付いたのは、その僅か数秒後のことだった。
「しまっ――!」
その刃の先にいたのは、先程フェイトが助けようとした、先にジャックと戦闘し、敗北して倒れていた現地の住民。
咄嗟に手が伸びる。反射的に魔力を収束させ、彼を助けようと前に踏み込む。フェイトだけでなく、アカネとコルトも同様に、魔力を収束させた脚で前に踏み込んでいた。
だが、液体金属生命体の刃の形成速度はあまりにも早く、フェイトが反応した頃には、地面に横たわったその身体はすでに刃に穿たれていた。
『――――くそっ!』
悪態をつくフェイト。その声が、二人のそれと重なる。
また。
また、助けられなかったのだ。
理不尽な悲劇から誰かを救うために執務官になったのに……結局、救えなかった。
自分の目の前で、理不尽に命を奪われた。
悔しさと悲しさが胸にこみ上げる。
無念と後悔が、フェイトの心を苛んでいく。
なにが、『管理局最速の執務官』だ。
肝心な時に助けられない速さに、一体何の意味があると言うのだ。
「…………撤退だ」
嘆くフェイトの耳に届いた、コルトの声。
苦々しげに放たれたその言葉の意味を理解するのに、今のフェイトには数秒の時間を要した。
「て、撤退?」
「そんな、コルト執務官! これは、ここで倒さないと……」
「ダメだ。少なくても今の俺達じゃあ、こいつに決定打は与えられない。このままこんなところにいてもジリ貧にしかならん。それに……俺達もそうだが、フェイト執務官。あんたも、魔力が残ってないんじゃないのか?」
「そ、それは……」
コルトの言葉に、フェイトはたじろぐ。
確かに、目の前にいる液体金属生命体に対抗するための手段は、この三人にはない。直接的な破壊行為が苦手なフェイトとアカネ、そして詠唱魔法を中心とした属性魔法を苦手とするコルト。この三人では、液体金属生命体に決定打を与えることはできない。
それに加えて、フェイトの残り魔力が少ない。この地下空間に来るまでに戦いを繰り返し、ジャックと戦うためにオーバードライブを起動させた。過度の自己ブーストによる魔力消費量は乗算で増えていく。その状態で、それなりの時間が経過している。
実際、フェイトはすでに、あと数回詠唱魔法を放つ魔力も危うかった。
「それに、遺跡にいる生物は……それも、こいつみたいに、明らかに遺跡を守るために配置された生物兵器は、遺跡から出ない。……そうだろう? アカネ・エディックス」
「……ああ。その、生物兵器というのは良く分からないが、遺跡の中にいる生き物は、例外を除いて遺跡の外には出ない」
それは、フェイトが調べた中でも出てきた情報だ。
遺跡の中にいる生き物は、基本的に遺跡から出てこない。
少し前の自分ならその事実に不信感を覚えていたが、モノリス内部に複数配置され、ガードロボットと一緒に自分のことを襲ってきた生物兵器の相手をした今なら分かる。
彼らは……遺跡に住む生物達は、その全てが遺跡を、かつての古代文明の建造物を警備するために配置された生物兵器なのだろう。
遺跡に生物が住み着いているのではない。
遺跡を守るために、その生物達は遺跡に住んでいたのだ。
「加えて、こいつは俺達がこの部屋に来て、ジャックがあっちの通路に進もうとするまで、ずっと壁に擬態していたんだろう?」
コルトの言う通り、フェイトとジャックが戦っている間は、あの液体金属生命体は少しも反応しなかった。コルトが最深部へ向かうための通路へ近づいて、初めてその姿を現したのだ。
「ということは、あいつはあの通路の先……モノリスの最深部へ進もうとする輩を倒すために配置されたものだ。行く手を遮るために配置された、防御用の生体兵器だ。なら、後退した俺達を追いかけて来る理由がない。……通路を塞ぐためにいるんだ。そこから離れたら意味がない。少なくても、一定範囲を超えたら元の位置に戻るハズだ」
「で、でも……」
「仲間が心配なのは分かる。俺だって、仲間達が心配だ。ここに残りたくない、と言ったら嘘になる」
コルトの言葉に、フェイトは気付かされる。
コルトは元々、スノーストームの乗組員としてこの世界に来たのだ。
そして、コルトは情に厚い性格だ。
彼が仲間達のことを助けたいという気持ちは、フェイトと同じくらいに強いのだ。
「だが、俺達がここで死んだら……一体、誰があいつらを助けるんだ?」
目の前の液体金属生命体を警戒しながら、コルトは視線を中央の機械に向ける。機械の大部分を占める球体の内側に浮かぶのは、異空間に閉じ込められたスノーストームとクラウディアの姿。
事実、この世界で彼らを助け出すことができるのは、コルトとフェイトくらいしかいないのだ。
「…………」
「フェイト。戻ろう」
そしてアカネもまた、フェイトに一旦撤退するように促す。
理性と感情が、フェイトの中でせめぎ合う。
フェイトがモノリスに突入したのは、凶悪な次元犯罪者であるジャックを捕縛するためだった。
しかしそれ以前に、フェイトがここまで来たのは、義兄であるクロノを中心としたクラウディアのクルー達を捜索し、助け出すためだ。
ようやく、クラウディアの所在を見つけ出した。
不本意な終末だったが、ジャックを捕縛する必要性も失われた。
だから、こそ。
「……分かりました。撤退しましょう」
冷静で、確実な判断が求められる。
ここで焦って、クロノ達を助けられなくなること。それだけは、なんとしても避けなければならないのだから。
「よし。なら、殿は俺がする。アカネは先頭で、道を切り開いてくれ。フェイト執務官は中央。状況に応じての補助を頼む」
「了解」
「分かった。任せろ」
コルトの指示に従い、フェイト達は陣形を組む。
アカネが先頭、フェイトが真ん中で、コルトが最後尾。
コルトの万能性とアカネの突破力、そしてこの中で一番余力のないフェイトを中央に持ってきた、遺跡の通路を通りながらの撤退に関しては最適な配置。
そうして、フェイト達は撤退を開始した。
モノリスの通路を、フェイト達は駆け抜ける。
幸いにも液体金属生命体の歩みは遅く、追いつかれる、ということはなかった。
他の生体兵器やガードロボットに撤退を妨害されると思っていたがそれもなく、警戒して後退すれば危険なことはなかった。
予想以上に、撤退はスムーズに進む。
ただひとつの、予想外を除いては。
「こいつ、どこまで……!」
今フェイト達がいるのは、モノリスの中でも浅い場所。深度で言えば、大体地下二階くらいの場所。モノリスの入口も近く、おそらく後五分もしないうちに外に出ることができる。
そこまで撤退したのに、未だに液体金属生命体が追いかけて来ていた。
明らかに防衛用に配置されていた液体金属生命体。
もし液体金属生命体が攻撃兵器として造られたのならば、壁に擬態し、目の前に侵入者がいたのに攻撃しなかった理由が見つからない。この生体兵器が防衛用であることは、紛れもない事実なのだ。
それなのに、守るべき場所から離れ、フェイト達のことを追いかけ続ける。
液体金属生命体の造られたコンセプト、防衛兵器としては、明らかに異常な事態だった。
「このままじゃ、外に出るぞ……!」
三人の顔にも、焦りが滲む。
最後尾にいるコルトが足止めの魔法を使うが、液体が対象ではほとんど意味を持たない。
無論、遺跡の外には出ないのかもしれない。ギリギリまで対象を追いかけるように設定されている、という可能性もあるにはある。
だが、少なくても、ここにいる三人には、その可能性はあまり想定できなかった。
それ以上の最悪が起こると、そういう予感がしていたのだ。
「どうして……」
フェイトは考える。
おそらく、遺跡に住む生物達が遺跡を、かつての古代遺跡の建造物を守るために造られた生物兵器であることはほぼ間違いがない。
守るために造られたのだから、遺跡に住む生物達は遺跡の外に出ない、というこの世界での常識も納得がいく。
ならば、どうして目の前の液体金属生命体は、ここまでフェイト達を追跡しているのか。
そもそも、どうして生体兵器なのか。
ただ単純に防衛・警備用ならば、ガードロボットの方が余程効率が良い。生体兵器というものはガードロボットよりも製造やその後の管理が困難であり、兵器としての寿命も短い。古代遺跡を造り上げたかつての技術者達は、一体何を考えて生体兵器を大量に採用したのか。
「こういうとき……」
こういうとき、シャーリーならどう考える?
自信の相棒で、妹に近い存在で、豊富な専門知識と回転の速い頭で公私共にフェイトのことを支えてくれる彼女。シャーリーなら、この状況をどのように捉え、どのような答えを導き出すのか。
彼女は常に、事象を可能な限り論理立てて、理詰めで状況を解析する。
過去の事例、本や講義で得た知識、自身の経験を照らし合わせ、全ての知識を総動員して考えているのだ。
「……確か……」
シャーリーの思考方法を真似ながら、フェイトは考える。
過去の事件で、フェイトは生体兵器というものに遭遇したことがある。
ロストロギア・レリック事件から始まった一連の大次元犯罪、J・S事件。
彼は技術者系の次元犯罪者で、ガジェットと呼ばれる機械兵器を大量に製造しておきながら、最も力を入れていたのは、ナンバースを始めとする戦闘機人……生体兵器軍だった。
大犯罪者であり、唾棄すべき人物ではあるが、彼はいわゆる天才だ。その彼が、自分の専門であるとはいえ、戦闘機人を自信の作戦の中心に組んでいた。無論、自身の技術力をアピールするため、というのもあるのだろう。だが、彼のような人物がそれだけの理由で、戦闘機人を中心におくとは思えない。
ならば、大量生産のきく機械兵器に勝る、生体兵器の利点とは何なのか。
生体兵器のメリットは、機械兵器よりも有機的な動きができること。0と1で構成される人工知能では限界のある柔軟な思考を有するため、大量生産の機械兵器よりも複雑な行動ができ、機械兵器よりも有機的な配置が可能になる。
逆に生体兵器のデメリットは、コントロールが困難であるということ。少なからず個々の意志があるため、有機的な配置をする場合、その複雑な行動条件を上手く制御し、コントロールする必要があること。
機械兵器は単純な動きしかできないが、制御や指令が簡単で。
生体兵器は複雑な命令にも対応できるが、その分指令系統が高度である必要がある。
「指令、系統……?」
フェイトの思考が止まる。
生体兵器の指令系統という言葉に、何か感じるものがある。
指令系統。
ナンバースの指令系統は、統一された意志だった。スカリエッティの野望を叶える。その理念の元に、司令塔から与えられた命令を、各々が考えて行動していた。
だが、この世界の生体兵器達はそこまで高度な思考力を有していない。何かの理念に基き、自身で考えて行動しているとは思えない。
だが、彼らは兵器なのだから、それをコントロールしている何かがあるのだ。
考えられるのは、機械的な制御。
脳に機械的な処置が施されているのかもしれないし、例えばラジコンのように、司令塔の指令を逐次受けて動いているのかもしれない。どちらにしろ、この世界の生体兵器達はナンバースのような自立思考型ではなく、機械的な操作型の制御を受けているのだろう。そうでないと、兵器として、あるいはガードロボットのように運用する際、不都合が多くなる。そして、遺跡内の生体兵器の行動が一致している点から考えて、生体兵器の制御を複数の人物が別々に行っているのではなく、おそらく全ての生体兵器が一括して制御されているのだろう。そう考えた方が自然である。
そこまで考えて、フェイトは違和感を覚え……その感覚にデジャビュを感じる。
この違和感は、どこかで味わったことがある。
記憶を頼りにその正体を考え、思いだす。
この違和感は、最初に調査をしたときに、あるいはこの世界の文明を見るたびに、感じるもの。
この世界のアンバランスな文明に対して覚える違和感と、それは同じものだったのだ。
「どうして……?」
その理由をいぶかしむフェイトの脳裏に、言葉が浮かび上がる。
『最近、遺跡の生物がおかしい』
『遺跡から出ないハズなのに、遺跡の外に出て来て、人を襲ったりね』
『森の奥深くにいた生き物が、最近こちら側にもやってくるようになってねぇ……』
『それも、明らかに凶暴化してるんだよ。動いてるものを見かけたら、見境なく襲ったりな』
最初の調査の頃から言われていた、生物達の異常。
遺跡に住む生物達の生息地の変化に加えて、遺跡以外に住む生物達の凶暴化。
高度に制御されている遺跡の生物と、野生に住む遺跡外の生物双方に見られる生態の変化。
その異常が、もしも本質的に同じものだったら……。
「――――まさか!」
思いだしてみればそうだ。
この世界に来て最初にフェイトが戦ったのは、本来森の奥深くに住む生物。それも、熱帯地帯に住むというのに、厚い脂肪に守られた身体。その地帯の食物連鎖の頂点にいるのに、必要以上に攻撃性の高い爪や牙。
それは、この世界に来て一番初めに覚えた違和感。
自然に生息する生物として、それは異常だった。
もしそれらも。いや、他の地域で確認されている、遺跡内外問わず見受けられる生物達も。この世界に生息する全ての生物が生体兵器であったとすれば。
この世界で起こっている異常現象。
その全てに、説明がつくではないか。
「――――」
そしてフェイトが導き出したその答えは、最悪の事態を導き出す。
フェイトの答えが正しいとするならば、おそらく、モノリスの存在する都市アクアエリーは、壊滅する。
《コルト執務官!》
《どうした、フェイト執務官?》
この答えを、この世界の住人であるアカネに伝えるわけにはいかない。
そのことを考慮し、フェイトは思念通話で、コルトにその答えを伝える。
この世界の生物が、全て生体兵器であること。
遺跡に存在する生体兵器は、一括して制御されていないと辻褄が合わないこと。
もしそうであれば、この世界で起こっている異常に全て説明がつくこと。
そしてその答えが正しければ、アクアエリーが壊滅することを。
《……フェイト執務官の言いたいことは分かった。だが、それがどうして、アクアエリーが壊滅することに繋がるんだ?》
《考えてみてください。今の仮定が正しいとするならば、この世界に住む生物は全て生物兵器であるということは、遺跡内の生物兵器同様に、なんらかの手段……おそらく管制システムで制御されているということになります》
《ああ、そうなるな》
《そして、制御されているにも関わらず……遺跡の内外問わず、この世界に住む生物達の行動にここ数年で異常が見られるということは、一体なぜなのでしょうか》
《…………制御に、異常が生じている?》
《はい。おそらく、バグが生じているのと考えられます。状況から判断するに、自分が留まるべき範囲・守るべき範囲の判断に異常があるのかと》
全て一括で制御されているからこそ、同様の異常が生じている。
遺跡の外と中の生物に見られる異常行動の原因が別ではなく、同じであると考えた方が、自然なのだ。
だからこそ、生息範囲の逸脱が起きている。
遺跡の外に住む生物はその行動範囲を広げ、遺跡の中に住む生物は、警備範囲を逸脱する。
凶暴化も、管制システムの異常だと考えれば、全ての辻褄が合う。
《古代文明が滅んでから、一体どれだけの年月が過ぎているのか。今の私達には判断がつきませんが、少なくても数百年単位の時間が経過していることは間違いがありません。それだけの間、メンテナンスをする人は誰もいない。そうなれば、少しずつ蓄積するバグを解消することもできず……限界が訪れても、不思議ではありません》
長い間使用すれば、システムにはどうしても微細なバグが蓄積していく。どれだけ高度な技術であっても、それは人が造りだしたものだ。管理局の技術力で造られたシステムに生じるバグよりも小さく耐用年数も遥かに長いだろうが、それでも、いずれ限界は生じる。その年月が最低数百年単位となれば尚更である。
《そして、警備範囲を逸脱した生体兵器が遺跡を出れば、どうなると思いますか?》
《……動くもの全てを敵だと判断し、無差別に襲いかかる……!!》
つまり、そういうことなのだ。
生体兵器は、おそらく“防衛対象範囲に入った”ということをトリガーにして、攻撃対象を判断する。だが、異常行動を起こしている生体兵器は、この防衛対象範囲が無制限に広がっている状態にある。
そして、フェイト、コルト、アカネといった、今この世界にいる実力者の中でもトップに位置する人物が、揃って手も足も出ない。
そのような状態で、アクアエリーに液体金属生命体が放たれれば、どうなるのか。
「フェイト、コルト! 出口だ!」
アカネの声に、フェイトとコルトは反応する。
思念通話をしているうちに、モノリスの入口に到着していた。
液体金属生命体を押し戻すことはできない。
止むを得ず、押し出されるように三人は外に出た。
「くそ、どうするんだ!?」
「早くしないと、他の人達が――」
焦るフェイト。
肌で感じるアクアエリーの空気は、今は完全に落ち着いている。
コルトが敵の大将を倒し、時間が経過したことで、おそらくほとんど制圧が完了したのだろう。
だからこそ、フェイト達は焦った。
シェルターに避難した住民や、郊外に集中して配置された防衛軍の隊員。
彼らが液体金属生命体の射程範囲に入るだけで、惨劇が生まれるのだから。
「急がないと――」
「フェイトさん!」
「コルト!」
「アカネ!」
聞きなれた、自分を呼ぶ声。
その声は、液体金属生命体を挟んで自分達の反対側から聞こえた。
拙い、と反射的に思った。
抵抗勢力の制圧がほぼ完了して、安全だと判断して出てきたのか。
急がないと、危険だ。
声のした方を向き、その姿を確認し、表情を見る前に、フェイトは駆け出した。
頭の中のスイッチを入れ替える。
今日何度目かになる、神速の機動。
残り少ない魔力が一気に消費される。痛んだ身体が悲鳴を上げる。動揺と焦りが精神を揺さぶる。身体中の血が沸騰するような感覚。嫌な汗が背中から噴き出す。身体は熱いのに、神経が氷水で一気に冷やされたかのように、感覚が研ぎ澄まされる。
これ以上ないほどに急いでいるのに、やけにゆっくりに感じる。
音が、聞こえない。視界が狭まり、視界に写る景色が白と黒だけになる。
自分を見つけた時と同じままの表情のシャーリー。
彼女に向かって伸びる刃。
身体が軋む。
手を伸ばす。残りの距離を測る。
込める魔力が、ない。
――――間に合わない。
「シャーリー!!」
思わず、叫んだ。
届かないと、分かったから。
だが、彼女は、反応できず、無情にも刃は伸び、
『Blaze Cannon』
次の瞬間、青い砲撃が、伸びる刃を薙ぎ払った。
「え……?」
「な……?」
「へ……?」
何が起こったのか分からない、という表情をするそれぞれのパートナー。
彼女が自分の行動を認識し、表情を変える前に、一気に遠くへ跳ぶ。
体勢を整え、勢いを殺してから着地する。
フェイトの両隣には、同じようにパートナーを抱えた、コルトとアカネの姿があった。
「今のは……!」
今のタイミング、完全に間に合わなかった。
魔力残量がないとはいえ、この三人の中で一番速いフェイトですら、本来なら間に合わなかったのだ。
それなのに、誰も欠けることなく、全員がここに存在している。
それを可能にしたのは、 液体金属生命体から伸びた刃を薙ぎ払った、青色の魔力光。
直前に聞こえたのは、この世界には存在しない機械音声……成人女性を模した、ミッドチルダ式デバイス特有のコマンド。
「諦めるのが早いぞ。フェイト・T・ハラオウン執務官」
そして、続いて聞こえてきたのは、厳しいけどその内側に優しさが込められた、低い男性の声。
フェイトが絶対に忘れることのできない、大切な家族の、聞きなれたそれ。
驚いて、その声がした方向を見つめる。
「最後まで諦めない者にしか、勝機は開けない。……こういう風にな」
そこには、昔から変わらない、黒いバトルスーツ調のバリアジャケットに身を包み、二本のデバイスを両手に持った男性――本局次元航行部隊『提督』クロノ・ハラオウンが、悠然とこちらを見つめていた。
「く、ろの……?」
唖然として、咄嗟に声が出てこないフェイト。
何故なら、クロノはクラウディアと一緒に次元の狭間に閉じ込められて、今もモノリスの深部にある、機械の中に封じられているハズなのだ。
それが、どうしてモノリスの外にいるのだ?
実際の現象に、理解が追い付かない。
「説明は後だ。ハラオウン執務官。状況を説明せよ」
低く凛とした、小さいながらも良く通る声。
その、提督としてのクロノの声に、フェイトは反射的に反応した。
「は、はい! 古代遺跡の生体兵器が、暴走しています。特徴は、液体金属特有の形態。本体が液状なので、物理攻撃も詠唱魔法も、その一切が通用しません!」
「生体兵器……なるほど」
こんな状況だと言うのに、恐ろしく落ち着いた声で、目の前の液体金属生命体を一瞥するクロノ。
それからクロノは視線を、今度はコルトの方に向けた。
「サウザンド執務官。“千変万化”と音に名高い君に、単刀直入に尋ねよう。……こいつの弱点は、何だ?」
「え、あ……え、液体金属生命体の弱点は、現時点では見受けられません。ですが、少なくても、自分の持つ技能では、これを倒す手段はない、と考えられます」
半ば呆然としていたコルトも、クロノの声によって、現実に引き戻される。
「ふむ。サウザンド執務官でも、倒すことのできない相手か……」
コルトの意見を聞き、咀嚼するように瞳を閉じるクロノ。
だが、その瞳はすぐに開き……その瞳には、静かに燃える熱い炎が灯されていた。
『Blaze Cannon』
予備動作どころか、何の前触れもなく、クロノは先程と同じ砲撃魔法を発動させる。
熱量を伴う物理破壊砲、ブレイズキャノン。
その砲撃は液体金属生命体の身体を貫通し……しかし、手ごたえはない。
液状の身体には、砲撃魔法も通用しないのだ。
「ならば……」
『Stinger Blade Execution Shift』
直後、液体金属生命体めがけて降り注ぐのは、魔力刃『スティンガーブレイド』の雨。その数は優に百を超える、スティンガーブレイドの一斉射撃による中規模範囲攻撃魔法。
百を超える刃の葬列は液体金属生命体の身体を上方から穿ち、その勢いと密度に液体金属生命体の身体は分断され、飛沫となって飛び散るが……液体らしく、すぐに集まり、元の姿を保ち続ける。
「……物理攻撃、属性攻撃も、効果はない。この調子だと、純魔力ダメージも通用しなさそうだな」
一切の攻撃が通用しない、液体金属生命体。
だというのに、クロノは極めて冷静に、戦局を見つめていた。
飛沫が集結し、再びひとつの塊となった液体金属生命体を一瞥し、クロノはフェイト達に告げた。
「ハラオウン執務官、サウザンド執務官、そしてそこの赤毛の女性。悪いが、下がってくれ。半径一キロメートル以内に、近づくな」
「……な、いきなり何なんだよ、あんた!」
淡々と指示を出すクロノ。
フェイトとコルトはその指示を自然に受け入れていた……と言うよりも、クロノの雰囲気に呑まれていたが、数秒遅れて、アカネがそれに反発した。
それも当然だろう。
アカネにとって、クロノは突然しゃしゃり出てきた謎の人物に過ぎないのだから。
「いきなり出て来て、それもここから離れろ、なんて、そんなこと聞けるわけ――」
「……ハラオウン執務官。彼女の名前は?」
「は、アカネ・エディックスです。彼女が抱えている少女は、ラティオ・レイノルズと言う、フォース能力者です」
「なるほど。分かった」
だが、アカネの抗議を半ば無視し、クロノはフェイトに彼女の名前を問いかける。
それから、今度はアカネの瞳を真正面から見据えて、はっきりと告げた。
「離れるんだ。アカネ・エディックス」
「!?」
途端、フェイト達が感じたのは、途方もないプレッシャー。
有無を言わせぬ強制力の込められた声。
従わないといけない。そう思わされる、圧倒的な威圧感。
幾千幾万の修羅場を潜り抜けた、本物の戦士のみが放つことのできる、高等技術。
雰囲気だけで、相手を圧倒する。
覚悟のない者、弱い者は、その威圧感に当てられただけで、筋肉が弛緩して動けなくなる。
レベルの高い魔導師であるとか、そういう次元の話ではない。
本物のもののふとしての実力が、クロノにそれを可能にさせるのだ。
事実、アカネほどの実力者が、たったの一言で、クロノに完全に呑まれていた。
「下がれ。四方半里に入るうちは…………巻き込まない、自信がない」
最後のクロノの声に、フェイト・コルト・アカネはそれぞれのパートナーを抱えたまま、その場から離れた。
幸いなことに、一般市民はまだシェルター内に留まっている。防衛部隊も、まだ郊外で抵抗勢力の残党を相手にしている。彼らを避難させる必要がないことに、フェイトは安堵した。
何故なら、分かったからだ。
これからクロノが使おうとしている、極大呪文の正体を。
「いくぞ、デュランダル」
『OK,BOSS』
それまで左手に持っていたデュランダルを右手に持ち替え、詠唱を開始する。
「コルト、アカネ! 物理・魔法防御じゃなくて、温度変化防御のフィールド、最大出力!」
「あ? 何故だ?」
「いいから、早く!」
『悠久なる凍土 凍てつく棺のうちにて 永遠の眠りを与えよ』
後方から聞こえる、クロノの詠唱。
「相手が液体で、どんな攻撃も通用しないと言うならば……!」
氷結特化のデュランダル。そして、クロノが長年培った魔力変換・温度変化技能によって初めて完成する、オーバーSランクの詠唱魔法。
『凍てつけ』
『Eternal Coffin』
次の瞬間。
クロノを中心とした半径一キロメートル圏内が、氷に覆われた。
「極低温で、凍結させればいい」
完全広域凍結魔法、エターナルコフィン。
攻撃目標対象を中心に、付近に存在するもの全てを凍結・停止させることを目的とした魔法であり、破壊や加熱などで外部から凍結が解除されない限り、その対象を半永久的に凍てつく眠りへと封じ込める、極大の凍結魔法。あらゆる物理法則が通用しない、絶対零度の世界。
それが物質である限り、どのような物質でも、その活動を停止する。
液体金属生命体も、その例外ではなく、クロノの造り上げた氷の世界に、完全に動きを封じられ。
液体金属から固体金属となったそれに、クロノはS2Uを接触させる。
『Break Impulse』
目標の固有振動数を割り出し、完全粉砕する魔法、ブレイクインパルス。
それに抗う術なく、それまで液体金属生命体だった物体は粉砕され――極端な温度変化によって生じた一陣の風によって、古代都市に霧散した。
「この先か……」
液体金属生命体をクロノが倒してから、更に約一時間後。
モノリス内の空間にあった、クラウディアとスノーストームを閉じ込めている機械の解析をシャーリーとステラに任せ、フェイト達は更にその奥、液体金属生命体が行く手を阻んでいた通路の先へと歩を伸ばしていた。
液体金属生命体が倒されたからなのか……それとも、バグがそこまで進んでいるのか。
モノリスへの再突入時には、他の生体兵器やガードロボットは一切出現しなかった。
「そうか、そんなことがあったのか……」
だから、道すがら、フェイトはクロノにそれまでのことを説明することができた。
この世界のこと、抵抗勢力のこと、古代文明の遺跡と、それに纏わるアーティファクトと呼ばれるロストロギア、そしてこの世界に住む生物達……生体兵器の話。
「……ごめんね。アカネ、ラティオ」
そして最後に、フェイトはアカネとラティオに謝った。
先進世界の住人であるフェイトは、二人に真実を話すことはできなかった。
今までずっと嘘をつき通し続けてきたが……ここに来て、それも叶わなくなった。
無論、打算もある。ここまで深入りされてしまった以上、事情を説明して、納得ずくで口を封じた方が良いと判断したこともある。
だがそれ以上に、自分のことを仲間だと言ってくれた二人に嘘をつき通し続けることが、フェイトには心苦しかったのだ。
だから、決まりを破って二人に事情を説明する時、心のどこかで、フェイトは安堵していた。
これ以上、嘘をつかなくてもいいという結末を、フェイトは心のどこかで望んでいたのだ。
「…………」
しかし、それまで嘘をついていた、という事実は拭えない。
そのことに対し、不安な気持ちもフェイトにはあったのだが。
「まぁ、事情があったんだから、仕方ないよな」
「そうだね。誰にだって、話せない事情くらいあるよ」
「それに、こうして話してくれたんだしな。……だけどこれからは、嘘はなしだ。それが、仲間ってもんだろ?」
そう言って、アカネもラティオも、フェイトのことを受け入れてくれた。
そのことが嬉しくて、何度もフェイトは二人に感謝の言葉を伝えて。
そうして話をしながらモノリスの最深部へと進み続け、とうとう最後の扉の前に到達した。
「……これが、最後の扉か……」
最後の扉は、それまでのものとは異なり、完全に開かないように閉鎖されていた。隔壁、と言った方が正しいだろう。それまでのただの通路の区切りとしての扉ではなく、侵入者を拒むための扉。そういった趣が、この中に何かある、ということを暗に臭わせていた。
その最後の扉も、直接的な攻撃力を持つクロノとラティオの組み合わせで破壊され。
フェイト達は、モノリス最深部に突入し……息を呑んだ。
「え……?」
フェイトだけでなく、ここにいる誰もが、モノリス最深部の光景を目にし、言葉を失う。
何故なら、フェイト達の前に広がっていたのは……花畑。
ドーム状の空間一杯に、花の絨毯が広がっていたのだ。
「……これは……」
太陽の明かりとなんら遜色のない人工照明。
気温は温かく、春の陽気を彷彿とさせる風。
ここが地下深くだと言うことを忘れてしまうほどの、予想外の光景。
そして、その花畑の所々には、花畑を駆け回る子供達と、一人の大人の女性。子供達も、おそらく保護者と思われる女性も、突然の来訪者であるフェイト達を見て、言葉を失っている。
古代文明の中心であるモノリスの最深部には花畑が広がっていて、そこで暮らす人間がいた。
考えてもいなかった事態に、フェイトどころかクロノですら、言葉を失う。
何を言っていいか分からず、無言で見つめ合う両者。
やがて――先に口を開いたのは、その女性の方だった。
「……貴方達は、誰ですか?」
皆様、いつもEXbreakerのご愛読ありがとうございます。
EXBreaker管理人、天海澄です。
ようやく、魔法少女リリカルなのはsymphony phaseⅢが完結しました。
phaseⅡが完結したのが5月くらいですから、ここまでに約8か月……だと……!?
相変わらずの遅筆です。すいません。
さて。
今回の物語は、フェイトを中心とした歴史系のお話です。
ひとつの世界の衰勢を廻る時代の流れに翻弄されるフェイト。
歴史の変遷期という不安定な時期に、それでも自分の信念を貫き通す者達。
そして、未だ解き明かされない古代遺跡の謎。
お話のテーマを敢えてあげるとすれば『意志』でしょうか。
信念、は少し違う気がするので。
実は、Ⅲはキャラクターではなく、物語と世界設定の説明がメインみたいなところがありまして。
後に繋がる物語を優先したため、キャラの掘り下げが少ない分心理描写とかが薄くて、作者も残念なのです。
歴史系のお話なのに、書き込みが足りない?
その辺は、掘り下げ不足込みで作者の力量不足です。
ハイ・ファンタジーはシナリオの負担がデカイ、というのは本当なんですね。
ハイ・ファンタジー:現実とは異なる世界(地理)、生物種、文明、その他森羅万象を設定し、そこで展開する物語。
ロー・ファンタジー:現実の世界を舞台にし、そこに異質な存在など(ファンタジー的な要素)が介入してくる物語。
ただし上記の定義以外でも、ハード・ファンタジーとライト・ファンタジーなどとして区切ったとき、ニュアンスを織り交ぜて会話されることもあり、定義としては曖昧なところも多いです。ラノベとか
今回も、中途半端な終わり方ですね。
ⅡはともかくⅠもこんな感じも終わり方でした。
しかし、Ⅰのときは『俺達の戦いはまだ始まったばかりだ』みたいな終わり方でしたから、Ⅲの終わり方はそれ以上に中途半端です。
おそらく、これから2クール目、14話が始まるのが自然な流れでしょう。
でもそんなの知ったことか。
誰が何と言おうと、phaseⅢはこれで終わりなんです。
先にも述べた通り、phaseⅢは『後に繋がる物語』であり、ⅠⅡ以上に、FINALへ繋げるための物語、という側面が強いのです。
だから、ⅠⅡに比べて回収していない伏線が多いわけで。
symphonyシリーズは、Ⅰ~Ⅵ、FINALの全7章構成。
無論、最初の頃から言っている通り、Ⅰ~Ⅵはそれぞれが独立した別々の物語、というスタンスは崩れません。
Ⅲも、後に繋がるというだけで、それそのものが独立した物語でもあるわけですし。
だから、他の章を読まなくてもFINALは読める。
でも、FINALを読む前に他の章を読んでいると、物語の全容が把握できると思います。
物語の構成的な意味では、『ひぐらしのなく頃に』シリーズに近いものがあるわけです。
とにかくそういう構成なので、各章にもFINALへ続く伏線が仕込まれているわけで。
Ⅲは特に謎解き要素が強いと思います。
フェイトがいた世界『ヴェルト』の正体。
古代文明の謎。
そして、他のphaseとの繋がり。
……果たして、あなたは物語を正確に読み解くことができるのか?
Ⅲにはミスリード的伏線は組み込んでいないハズなので、謎解き予想なんてして、その推理をWeb拍手なんかで送ってくれると嬉しいです。
最後に。
天海澄は、皆様からの率直な意見や感想を随時募集しています。
短編でも長編でも、SSの感想や展開の予測等、私の大好物です。
誤字報告や展開的矛盾の指摘、お叱りの言葉、必要です。飴と鞭両方必要です。
あーでも、狙ってやった展開的矛盾は許してください。演出ですので。
それと、にっきの方も、余裕があれば立ち寄ってください。
毎回作者がヴィヴィオに貶されながらWebラジオ風に拍手レスをしています。
物語の解説やちょっとした裏設定、あとイベント告知なんかもしています。
ぶっちゃけ訪問者数が少ないので、作者は少しさみしいのです。
天海澄の書いたSSを読んで、皆様が少しでも楽しんでいただけたのならば、SS書きの端くれとして、これほど嬉しいことはありません。
それでは、これからも、EXBreakerと天海澄を、よろしくお願いします。
2010/01/29
天海澄